2007年 08月 17日
ルドンの黒 |
「黒」とは、色のないことではない。
渋谷bunkamuraで開催中の「ルドンの黒」を観てきた。
ルドンの作品は、異形の生物や目玉のモチーフ、象徴的な人物などを用いたものが多く、しばしば「コミカルで独創的」「象徴主義全盛期のリーダー格」などと表されている。
が、なぜだかその画面には「見ろ!俺の作品を!!」という押しつけがましさがない。
ただ、淡々とそこにある絵。
「これらは私の思考のプロセスに過ぎず、回答ではない。
だから、当然あなたの正解にもなり得ない。
しかし、これを見てあなたの何かのヒントになるならば、ご自由にどうぞ」
というメッセージを感じる。
これだけ強く印象的なモチーフを扱いながら、この優しくて控えめな、見る者を自由にする空気はなんだろうか。
ルドンの黒は、色のない黒ではない。
全ての色を内包した「種」だ。
その証拠に、色彩を用い始めたルドンの絵には、その黒から吹き出した夢か極楽のような色があふれている。
ルドンは、色彩を持っていた。そして、あこがれていたのだ。
やっと、色を使えるようになった。
鮮やかで、優しい、幸せの色。
「黒」は、その種だったのだ。それが芽吹いて、花開いた。
モノクロームのリトグラフや極彩色の絵を発表しつつ、ルドンが大切にしまっていた絵がある。
彼はこれらの絵を売りに出していない。そのために、あまり知られていない地味な油彩の風景画がある。
ぽつんと建つ建物と空。ポプラ並木。淡いばら色の大きな岩のある風景。
私はこの数枚に、涙が出てしようがなかった。
なんでもない空や大地、大きな樹。美しくて透明で、優しい。
ルドンはこの時、悲しかったのだ。
本当に悲しい時には、空がとてもきれいに見える。
からっぽで淋しい、ぽつねんと取り残された人間に、自然は優しい。
ペイルルバードの庄園で孤独な少年時代を過ごした彼に優しかったのは、空と大地と木々だった。
自然が、彼を優しくて色彩を大切にする人間に育てたのだ。
若いルドンがせっせと画布に写し取り、石版に刻んでいいたのは、大きな岩山や空、平原などという「無限」や「永遠」の中のちっぽけな人間だった。
可能性への期待と無限への不安。小さい自分。人間のちっぽけさ。いとしさ。
それらを、若いうちに外から静かな目で見つめることができたのは、大きな空や大地に愛されて育った彼だからこそではないだろうか。
孤独で悲しい生い立ちは、彼に優しさを与えた。
それはまさに、天からの「ギフト」。
傷ついた人間は、傷ついた分だけ優しくなれる。
自分の心の動きや弱さをさらけ出すことができる人間は、本当はしなやかで強い、ということだ。
ルドンの黒は、あたたかい黒。優しい黒。
こんな黒を、私も持ちたい。
渋谷bunkamuraで開催中の「ルドンの黒」を観てきた。
ルドンの作品は、異形の生物や目玉のモチーフ、象徴的な人物などを用いたものが多く、しばしば「コミカルで独創的」「象徴主義全盛期のリーダー格」などと表されている。
が、なぜだかその画面には「見ろ!俺の作品を!!」という押しつけがましさがない。
ただ、淡々とそこにある絵。
「これらは私の思考のプロセスに過ぎず、回答ではない。
だから、当然あなたの正解にもなり得ない。
しかし、これを見てあなたの何かのヒントになるならば、ご自由にどうぞ」
というメッセージを感じる。
これだけ強く印象的なモチーフを扱いながら、この優しくて控えめな、見る者を自由にする空気はなんだろうか。
ルドンの黒は、色のない黒ではない。
全ての色を内包した「種」だ。
その証拠に、色彩を用い始めたルドンの絵には、その黒から吹き出した夢か極楽のような色があふれている。
ルドンは、色彩を持っていた。そして、あこがれていたのだ。
やっと、色を使えるようになった。
鮮やかで、優しい、幸せの色。
「黒」は、その種だったのだ。それが芽吹いて、花開いた。
モノクロームのリトグラフや極彩色の絵を発表しつつ、ルドンが大切にしまっていた絵がある。
彼はこれらの絵を売りに出していない。そのために、あまり知られていない地味な油彩の風景画がある。
ぽつんと建つ建物と空。ポプラ並木。淡いばら色の大きな岩のある風景。
私はこの数枚に、涙が出てしようがなかった。
なんでもない空や大地、大きな樹。美しくて透明で、優しい。
ルドンはこの時、悲しかったのだ。
本当に悲しい時には、空がとてもきれいに見える。
からっぽで淋しい、ぽつねんと取り残された人間に、自然は優しい。
ペイルルバードの庄園で孤独な少年時代を過ごした彼に優しかったのは、空と大地と木々だった。
自然が、彼を優しくて色彩を大切にする人間に育てたのだ。
若いルドンがせっせと画布に写し取り、石版に刻んでいいたのは、大きな岩山や空、平原などという「無限」や「永遠」の中のちっぽけな人間だった。
可能性への期待と無限への不安。小さい自分。人間のちっぽけさ。いとしさ。
それらを、若いうちに外から静かな目で見つめることができたのは、大きな空や大地に愛されて育った彼だからこそではないだろうか。
孤独で悲しい生い立ちは、彼に優しさを与えた。
それはまさに、天からの「ギフト」。
傷ついた人間は、傷ついた分だけ優しくなれる。
自分の心の動きや弱さをさらけ出すことができる人間は、本当はしなやかで強い、ということだ。
ルドンの黒は、あたたかい黒。優しい黒。
こんな黒を、私も持ちたい。
by shizumin_exite
| 2007-08-17 01:18
| イベント